恋愛感情がない人はアセクシャル?Aセク(無性愛者)の意味や特徴を解説

Edit by 羽莉花南

誰に対しても恋愛感情が湧かない…

人を好きになったことがない。恋愛感情や性的感情を抱くことがない。周囲の人と比べて様子が違う自分に戸惑ってしまいますよね。無理やり話を合わせて苦しい思いをしていることもあるかもしれません。

アセクシャルなど、少数派のセクシャリティを持つ人の中には、「何か自分に問題があるのでは……?」と悩んでしまう人も少なくありません。今回の記事では、無性愛者やaセクとも呼ばれるアセクシュアルについて詳しく解説していきます。

無性愛者と呼ばれる「アセクシャル」とは?

アセクシャルとは、他者に対して性的感情を抱かないセクシャリティのことです。他にも、無性愛者やaセク、エイセクシャルと呼ばれることもあります。アセクシャルの中には、性的感情が全くない人もいれば、少ししかないという人もいて、性的感情の抱き方はそれぞれです。

また、「性的感情がない=恋愛感情がない」というわけではなく、アセクシャルの中には恋愛感情がない人もある人も存在します。ただ、日本では恋愛において性的感情よりも恋愛感情が重視される傾向があるため、アセクシュアルは「性的感情や恋愛感情がないセクシャリティ」として独自の使われ方をされてきました。最近では英語圏と同じように性的感情を重視する使われ方をすることも増えてきています。

性的感情はあるが恋愛感情がない

性的感情はあるけれど恋愛感情がないという人も存在します。恋愛感情の有無に関わらず性的感情がないのがアセクシャルであるのに対して、性的感情の有無に関わらず恋愛感情がないアロマンティックと呼ばれるセクシャリティもあります。

恋愛感情がないアロマンティックのセクシャリティを持つ人の中には、性的感情はあるという人も性的感情も抱かないという人もいるのです。性的感情は抱くけれど恋愛感情がない人は、アセクシャルではなくアロマンティックに含まれます。

意外と多い?アセクシャルの人の割合

アセクシャルの人の割合は、人口の1%と言われています。ただ、国や調査機関によって、結果にばらつきが見られます。センシティブな調査であるだけに、なかなか「何人です」「何%です」と断言するのが難しいものです。

2023年に発表された東京大学の研究員による「日本人の性的行動に関する全国調査」では、アセクシャルだと自認する人の割合は女性で10%、男性で6.9%という結果が出ています。

女性については、世界的に人口の1%といわれている割合と10倍の差がありますよね。10%であれば10人に1人です。アセクシャルの人は、実際にはイメージよりも多く存在している可能性があります。

自分がアセクシャルか見極める方法

「自分はアセクシャルかも…」と思ったとしても、セクシャリティは病気ではないので正確な診断方法がありません。自分のセクシャリティは、自認することで決まります。

性的欲求を感じなかったり、性行為が苦手であったりする場合は、アセクシャルかもしれません。思春期や誰かと交際しているときの違和感を思い出してみるのも、判断材料となるでしょう。

身近に相談できそうな人がいればいいですが、それが難しいことも多いですよね。けれど、今はネットやSNSを通じて知らない人と交流することも簡単です。ネットやSNSを通じて当事者の方のお話を聞きながら、自分と比較して答えを見つけていくのも有効な方法だと考えられます。

気になるアセクシャルの“結婚観”は?

アセクシャルだから結婚願望がないという訳ではありません。恋愛感情や性的感情がなくても、信頼できる相手と人生を歩んでいきたいという願望を持つ人も多いです。性的感情がないことは、さみしさを感じないこととイコールではありません。また、性行為は望まなくても子どもは欲しいと考えているアセクシュアルの人もたくさんいます。

親や周囲からの期待に応えるため、社会的な立場や世間体を保つために結婚を望むこともあるでしょう。古い価値観ともいえますが、親族からの結婚のプレッシャーを感じる人、配偶者がいる方が信頼できると考える人はまだ多くいるのが事実です。

恋愛感情や性的感情を介在させない「友情婚」という新しい結婚の形も広まってきています。

アセクシャルと類似するセクシャリティ

LGBTという言葉が浸透してきて性的マイノリティの存在は世の中に広く知られるようになりましたが、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー以外にもたくさんのセクシュアリティが存在します。LGBTの後ろに「QIA」や「Q+」を付けられるようになったのはそのためで、アセクシャルもその一つです。

他にもアセクシャルと類似するセクシャリティとして、ノンセクシャル(ロマンティック・アセクシャル)、アロマンティック、アロマンティック・アセクシャル、Aro/Ace(アロ・エース)などが挙げられます。

ノンセクシャル(ロマンティック・アセクシャル)

ノンセクシャルは、他者に恋愛感情は抱くけれど、性的感情はないセクシャリティを指します。アセクシュアルが性的感情のみで分類されるのに対して、より限定的にセクシャリティを表す呼び方です。

トラウマによることもあれば、生まれつき性的な行為が苦手という人もいます。また、自慰行為はできる、セックスはできるけれど相手の思うようにはできない、下ネタを聞くだけでも気分が悪くなるなど、ノンセクシャルの中でも性的なことに対する感じ方は人それぞれです。

アロマンティック

アロマンティックは、他者に対して恋愛感情を抱かないセクシャリティです。他者を恋愛的に好きになることがなく、映画やドラマの恋愛描写も理解できないことがあります。ただ、恋愛感情がないだけで、家族や友人への愛情を感じない訳ではありません。

アロマンティックの人の中には、性的欲求がある人もない人もいます。アロマンティックは、性的感情の有無は関係なく、恋愛感情の有無を重視したセクシャリティの考え方によるものです。

アロマンティック・アセクシャル

アロマンティック・アセクシャルは、他者に対して恋愛感情も性的感情も抱かないセクシャリティを表す言葉です。恋愛感情がないアロマンティックと性的感情がないアセクシャルの両方の特徴を持ち合わせたセクシャリティを指します。

アロマンティック・アセクシャルである場合も、恋愛的な魅力や性的な欲求を感じることがないだけで、家族愛や友人愛、ペットへ向けられる愛情などの有無とは全く関係がありません。

Aro/Ace(アロ・エース)

Aro/Ace(アロ・エース)は、アセクシャルやアロマティック、ノンセクシャルなどを含めた広いセクシャリティを包括した呼び方です。それぞれのセクシャリティでももちろん個人差がありますし、境界が曖昧なところもありますよね。それを大きくとらえた考え方です。

Aro/Ace(アロ・エース)には、他にも恋愛感情や性的感情を抱くのが稀な人、強い信頼を感じた相手にのみ恋愛感情や性的感情を抱く人、他者への恋愛感情や性的感情があるけれど相手からそれらを受けるのを望まない人なども含みます。

生きづらさを感じる…アセクシャルの人が抱える悩み

アセクシャルの中には、生きづらさを感じている人も多いです。性的マイノリティの存在が世の中に浸透してきている現在でも、アセクシャルの存在についてはあまり知られていません。「性的感情がない」というセクシャリティ自体を知らず、そもそも存在しないという認識を持つ人も多いのです。

また、自分でも自分がアセクシャルであると気づいていない場合もあります。周囲の人との差に悩んだり、自然に振舞うと理解が得られにくかったりして、苦しむケースも少なくありません。

結婚相手やパートナーを見つけにくい

アセクシャルで性的感情や恋愛感情がなくても、愛情がない訳ではありません。恋人や結婚相手を望む気持ちがあるにも関わらず、相手を見つけるのが難しい状況にあります。

性行為抜きでの関係に同意してくれるパートナーを見つけるのは簡単なことではありませんよね。自分と理想的な関係を築いていける相手を見つけることは、アセクシャルの人にとって大変である場合が多いのです。

アセクシャルでないパートナーとの関係維持が難しくなる

また、アセクシャルの人にとって、パートナーがそうでない場合に関係を維持することも大変です。性的な欲求がなかったり、そのような行為を不快に感じたりする感情は、アセクシャルでない相手になかなか理解してもらいにくいですよね。

自分にとっては普通の振る舞いが相手を傷つけてしまったり、誤解させてしまったりすることもあります。また、関係を維持するために望んでいない性行為を我慢するケースも考えられます。

他者と違うセクシャリティを持つことに悩む

アセクシャルの人は、自分が周囲の人と違う感覚を持つために「自分に何か問題があるのでは…?」と思い悩んでしまうことも多いです。実際はセクシャリティは病気ではありません。

けれど周囲の大勢の人と自分が違うと、不安になるものですよね。また、周囲の人と感じ方が違うことで、すれ違いや誤解が生まれてしまうこともあります。周囲も自分もアセクシャルをアイデンティティとして受け止められていない状態だと、他者との違いに苦しくなってしまいます。

カミングアウトすべきが葛藤する

マイノリティのセクシャリティを持つ人にとって、それを周囲にカミングアウトするのは勇気がいることですよね。アセクシャルの人も例外ではありません。LGBTのように認知度の高いセクシャリティではないために、なおさら説明も難しいでしょう。

ただ、カミングアウトすることで、自分らしく楽に生きられるようになる可能性は高いです。自分の中だけにしまっておくべきか、本来の自分を周囲に分かってもらうべきか、悩み続けている人も多いでしょう。

周囲の性的な話に共感できない

また、アセクシャルの人は、周囲の性的な話に共感できないことも多いです。反応に困ったり、聞いているだけで不快に感じたりします。ただ、空気を壊さないように、輪から外れないように、一生懸命共感しているフリをしている人もいるでしょう。また、それが上手くできずに周囲との関係の築き方に悩んでしまうケースもあります。

特に思春期は、性的な感覚が周囲と違って話が合わないと大変ですよね。誰にも相談できずに思いつめてしまう可能性も考えられます。

アセクシャルをカミングアウトしている著名人

著名人の中には、アセクシャルであることをカミングアウトしている人も存在します。思春期に周囲にからかわれて悩んだこと、恋愛ができないのは人間として欠陥があるからだと思いこんでいたこと、自分のセクシャリティをカミングアウトすることで周囲に迷惑をかけてしまうのではないかと思いずっと言えなかったことなどを明かしてします。

それでも、さまざまな悩みを乗り越えてアセクシャルであることをカミングアウトした著名人について、ご紹介します。

中山咲月さん(モデル・俳優)

モデルで俳優の中山咲月さんは、自身のブログでアセクシャルであることを公表しました。また、中山さんはトランスジェンダーであることも明かしています。

「性別によって本来持っている個性にフタをしたくない」と考えたそうです。セクシャリティを公表したことで、しばらくは「トランスジェンダーの中山咲月」「アセクシャルの著名人」というイメージで見られると思うけれども、いずれは違う部分にフィーチャーしてもらいたいと語っています。

東友美さん(政治家)

東京・町田市議会議員の東友美さんも、町田市議会の定例会において自身がアセクシャルであることを公表しました。「アセクシュアルという言葉を知ることで、悩んでいる人に、自分だけではないことも知ってほしかった」と話しています。

東さんは性的マイノリティの支援への取り組みにも積極的に取り組んでいます。自分のセクシャリティを公表することは、東さんが強い意志を持って問題解決に努めていくという決意表明でもあったそうです。

なかけんさん(YouTuber)

YouTuberのなかけんさんもアセクシャルであることを明かしている著名人の一人です。なかけんさんは、恋愛感情も性的感情も抱かないアロマンティック・アセクシャルであることを公表しています。

枠にとらわれない独自の世界観が魅力のなかけんさん。恋愛に関しても「普通」という枠組みを外すことで、自分自身を受け入れられるようになったそうです。また、「恋愛感情がないと周囲に打ち明けることで受け入れられる安心感を知った」と話しています。

ティム・ガンさん(ファッションコンサルタント・タレント)

ファッションコンサルタントでタレントのティム・ガンさんも、自身がアセクシャルであることを公表しています。ティムさんは、著書の中で「アセクシャルという表現が一番真実に近いと思っている」と綴っています。

実際にはそれぞれが持つセクシャリティというのは、簡単に境界線を区切って表現できるものではありませんよね。ティムさんのセクシャリティへの考え方がよく表れている一文です。

身近な人がアセクシャルだったときの接し方

イメージされているよりも、多く存在している可能性が高いアセクシャル。あなたの身近にも、アセクシャルの人がいるかもしれません。

身近な人がアセクシャルだと分かったとき、誤った歩み寄り方をして、相手を傷つけたり遠ざけたりするようなことがあっては悲しいですよね。気を付けなければいけないことはあるでしょうか?気持ちのいい関係を続けるために気を付けたいことをまとめたので、ぜひ参考にしてください。

アセクシャルを「かわいそうなこと」と捉えない

相手がアセクシャルと分かったときに、「かわいそう」と捉えると相手との関係性に上下を作ってしまいます。セクシャリティは特性にすぎず、もちろん優劣はありません。少数派のセクシャリティを持つことで苦労した経験はあるかもしれませんが、勝手にそのイメージを押し付けることは間違っていますよね。

マイノリティでなくても、自分の持つ特性で苦労した経験はきっと誰にでもあるでしょう。特別視せずに、お互いの話を何でもできる関係になれるといいですね。

「性行為がない=愛情がない」という認識を取り払う

性的な感情や欲求がないことは、愛情がないことを示す訳ではありません。アセクシャルの人の中でも、家族や友達への愛情を持っている人がほとんどです。アセクシュアルというと冷たい人と誤解する人がいますが、その認識は間違っています。

その人が持つ愛情の大きさは、セクシャリティとは関係がありません。性的感情と愛情とを、混同しないように注意しましょう。

カミングアウトを受けても関係性を変えない

カミングアウトを受けて関係性を変えると、相手を傷つけてしまう可能性があります。アセクシャルはその人の特性の一つであって、それだけで人間が形作られている訳ではありませんよね。

その人自身をその人として大きく捉えるようにしてください。そうすれば、これまで認識していたセクシャリティに変化があったからといって、関係性を変える必要はないはずです。

多様性を認める姿勢を示す

多様性の大切さを多くの人が認識している時代です。「こうでなければ」と価値観を押し付けるような態度を取る人は少ないでしょう。けれど、知らず知らずのうちに、考えが偏っていることはありますよね。

柔軟な思考を持つようにしてください。多様性を認めているということを言葉や態度で示せば、少数派のセクシャリティを持つ相手もあなたに対して安心できるでしょう。

アセクシュアルとして、愛に満ちた人生を

恋愛感情や性的感情がないことは、人間としての欠陥ではありません。マイノリティであってもマジョリティであっても、セクシャリティはただの特性です。また、多くの人が持つセクシャリティであっても、恋愛感情や性的感情は人によって千差万別。厳密には分類できるものでもありません。アセクシュアルだからと言って疎外感を抱く必要はないのです。

どんなセクシャリティであっても、自分で受け入れることで楽になり、周囲から受け入れられることで安心できます。まずは、自分のセクシャリティと向き合って、よく理解するようにしてみてください。全ての人が違って当たり前なので、自分のアイデンティティとして前向きに受け止めましょう。自分が自分を認めることで、周囲からの理解は後からついてくるはずです。

羽莉花南

Writer

はとりかな|キャバ嬢、アジア女性研究機関勤務、さまざまな国の男性との交際経験を活かして恋愛を中心に女性のお悩みに寄り添う記事を執筆中。アメリカ→フランス→ベトナムと海外生活11年目。外国人夫、愛犬1匹、愛猫2匹と暮らしています。