結婚の新たな選択肢「事実婚」
好きな人と一生を共にする結婚。これからの未来を共に歩むスタイルは、夫婦の数だけあるはず。私たちの選んだ事実婚だって、その一つ。
今まで使った苗字に愛着がある、子どもは考えていない、手続きが多いため不便、仕事の関係ですぐに手続きできない…。事実婚を選ぶのには、それぞれのカップル・夫婦ごとに理由があります。
近年増えている「事実婚」。話題にあがるたび、SNSやTVなどでもさまざまな意見が取り上げられています。法律婚と事実婚では、制度が充実していなかったり法律婚よりも守られている制度の範疇がせまかったりするなど「良いか悪いか」だけでは判断できないことも多々あります。
ここでは、事実婚とはなにか、どんなメリット・デメリットがあるのかなどを解説していきます。
事実婚とは、婚姻届を出していない、未届けの夫婦
婚姻届を出すことで法律的に夫婦として認められる「法律婚」の一方で、婚姻届を提出していない夫婦が共同生活を送るのが「事実婚」です。婚姻届の提出による手続きを踏んでいないため、法律的には夫婦ではないと認識されています。
一見すると、同棲や婚約状態と似ていますが、本人同士が夫婦と認識しているため「婚姻届を出していないだけ」の状態です。
婚姻届を出していないので戸籍上の手続きは必要ありませんが、弁護士と共に公正証書を作成することで、事実婚であることを公的にも証明することができます。
事実婚と法律婚の違い
事実婚と法律婚ではいくつかの違いがあります。事実婚では、法的に配偶者としての認識や待遇がないため、医療や公的な場で「第三者」として扱われることも多いことでしょう。法律婚でしか認められない権利について、近年議論をよんでいます。
事実婚と法律婚の違いをいくつかまとめました。
事実婚 | 法律婚 | |
住民票への記載 | 夫(未届)・妻(未届)・同居人 | 夫・妻 |
姓 | 別姓 | 同姓 |
戸籍 | 別の戸籍 | 同一戸籍 |
|
⚪︎ | ⚪︎ |
配偶者控除 | × | ⚪︎ |
子どもの親権 | どちらか一方(主に母親) | 共同 |
婚姻届・離婚届 | 提出しない | 提出する |
遺産の相続 | × | ⚪︎ |
参考URL:https://www.athome.co.jp/contents/couple/common-law-marriage/
事実婚のメリット
近年増えつつある事実婚。増えているのはメリットがあるからです。法律婚よりも自由度が高く、現在の生活と大きな変化がないことから増えている事実婚。いったいどのようなメリットがあるのでしょうか?
夫婦別姓でいられる
夫婦別姓でいられることがメリットの一つです。SNSをはじめ、さまざまな場面で話題になる「夫婦別姓」ですが、仕事や自分の姓への愛着など理由はさまざま。婚姻届を提出する法律婚の場合は自動的に夫婦同姓となり、公的な書類や免許なども変更しなければなりません。
法律の上で事実婚は「夫婦」ではなく「同居人」や「婚姻関係にある」という扱いです。別姓のまま関係を続けられるのが特徴でしょう。
戸籍に影響しない
一般的に離婚すること「バツがつく」といいますが、これは戸籍上の関係性「妻」「夫」欄に大きくバツを表記し、離婚したことを書類上反映していたためです。
事実婚の場合、役所に婚姻届を提出しません。そのため戸籍上、夫婦として一つの戸籍に入ることはないのです。つまり戸籍に影響しないため、仮に別れる際に手続きすることはありません。また、法律婚に切り替える場合は初婚扱いとなります。
相手の親族と距離が保てる
事実婚は、家族間での結びつきよりも自分たちの選択や結びつきによって成り立っています。「親族同士の結びつき」に一定の距離を保てるのがメリットです。
SNS・TVなどさまざまなメディアで目にする親族間のトラブル。法律婚の場合、法的な家族関係が生まれるため、ある程度親しい距離が必要となるケースがほとんどです。事実婚の場合、夫婦で決めた距離感やルールを守れるため、双方にとってもメリットといえるでしょう。
法律婚とほぼ同等の権利や義務が認められる
事実婚では、不利益を被るという意見もありますが、近年事実婚やパートナーシップ制度などの増加により、法律婚とほぼ同等といってもいいほど権利や義務が認められています。
- 同居協力扶助義務
- 貞操義務
- 婚姻費用分担義務
- 日常家事債務の連帯責任
- 財産分与
これらは事実婚でも法律婚同様、民法で定められています。また、会社での待遇やさまざまな会社の家族割なども、会社や企業により法律婚と変わらずに対応してもらえることがほとんどです。
関係を解消したときの手続きが煩雑にならない
法律婚で離婚する場合、一度同姓にしたものをすべて元の姓に戻す必要があります。それらの手続きには時間や労力を要すものです。家を探したりライフラインを整えたりしなければなりません。
事実婚であれば、自分の苗字を変更するなどの手続きもなく、関係を解消するうえでのややこしく、また役所などで時間を取られてしまう手続きが必要ないため、メリットといえるでしょう。
事実婚のデメリット
メリットがあればデメリットもあります。メリットだけ見れば「事実婚ってよさそう!」と思ってしまいがちです。しかし、現代の日本で法律婚と事実婚が分けられている理由や、法律婚ではない・認めてもらえないことでのデメリットも知っておきましょう。
子どもが婚外子となる
法律婚で子どもができた場合、両親で共同親権となります。「両親どちらにも平等に親権があり、共同で育てる」ことです。しかし事実婚では、母親の単独親権「母親にしか親権がない」状態となり、苗字なども母親の姓になることがほとんどでしょう。
「婚外子」は「(法的に)結婚していない男女の間にできた子ども」という意味であるため、父親に親権を移したり父親姓にするために認知したり家庭裁判所で申請したりすることが必要です。
配偶者控除や医療費控除など、税金の控除がない
日本では、多くの税金制度や控除事項があります。法律婚をすると、これらの制度は基、自動的に適用されます。しかし事実婚は、社会保険の扶養に入ってもらうことはできる一方で配偶者控除の対象にはなりません。
多くの場所で法律婚とほとんど同じ待遇が受けられる事実婚ですが、国の制度では法律婚が前提であるため、税金など国の制度には適用されないデメリットがあります。
家族関係を証明できる公的な書類がない
事実婚では、二人で証明書を作ることができますがそれらは公的な場で効力を持ちません。第三者のいる場や公的な場において夫婦と証明する書類などがないことでデメリットを被ることもあります。
例えば、医療の現場で手術の同意書が書けない・家族として認められず面会ができないことが挙げられます。事実婚でお互いの苗字が違い法律婚ではないことのデメリットです。
遺産の相続権がない
仮にどちらかが亡くなった場合、特別な遺書などを残していなければ、法律婚ではお互いの配偶者に遺産の権利があります。しかし、事実婚では法的な相続権が発生しません。遺書を残したり弁護士などに書類を作成してもらったりするなど特別な措置が必要です。
周りや自分の家族がどう感じていても、法的に守られていない部分に関しては法律婚よりも手続きが増えるでしょう。
事実婚を選ぶカップルの7つの理由
日本では、未だに法律婚への意識やイメージが強く、事実婚に対して懐疑的な声も上がっています。メリットもデメリットもある事実婚、近年では芸能人でも増えてきていますが、事実婚を選ぶ理由にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは事実婚を選ぶ人たちの理由や選択に至る背景をご紹介します。
苗字を変えずに済む
法律婚の場合にしなければならない手続きの一つが、苗字の変更です。苗字を変更するのは女性が多い傾向にあります。近年では男性の比率も増えてはいますが未だ数は少ないため、女性が苗字変更の手続きに時間を取られてしまうでしょう。
事実婚場合、免許証やパスポートをはじめとする証明書に関して、苗字を変更する必要はほぼありません。これまでの苗字を今まで通り使えるため、仕事などで支障が出ることもないでしょう。
公的手続きが不要
法律婚を選択した場合、届出を提出し、会社にも結婚した旨を伝えたうえでさまざまな手続きが発生します。書類やクレジットカードなどの変更など公的な手続きが必要です。事実婚では、それらの公的な手続きはほとんどありません。
公的な手続きで取られる時間やお金もなく、これまで通りに同じカードや証明書を使い続けることができます。時間、お金はもちろんのこと、精神的にも疲弊するから手続きに時間を取られたくないのを事実婚の理由にしている人も少なくありません。
女性の社会的キャリアを守れる
女性が直面しやすい問題の一つといえる社会的キャリア。自分で事業を経営していたり、フリーランスなどで働いていたりする場合は特に、キャリアに関して考えることが多いでしょう。
昔は結婚したら専業主婦、あるいはパートなどへと転換することが当たり前であり、今でもその考え方が根強く残っている傾向にあります。そのため法律婚の場合「結婚したら出世コースから外れしまう…」「結婚や妊娠で今まで通りの仕事量を与えられなくなってしまう」といった不安がつきまといがちです。
これら社会的キャリアを守るために、事実婚を望む女性も増えています。
万が一別れた場合に関係解消がしやすい
いくら仲が良くても、いくら一緒にいる歴が長くても、お別れしてしまう未来がまったくないとはいえません。法律婚の場合、公的な手続きを含め、離婚するのにもかなりの体力・時間・お金が必要です。また、会社や公的な場でも離婚について話さなければならないでしょう。
事実婚ではそれらがなく、離れればおしまいです。関係解消のしやすさで事実婚を選ぶ人もいます。
相手に別のパートナーがいる
中には特殊な関係ではありつつ、相手にパートナーがいるため事実婚を選んでいる人もいます。前妻や前夫と別れていなかったり裁判中であったりするなど、さまざまな理由で離婚が成立していないため、事実婚を選ばざるを得ない人も。
また、家族の事情で同性カップルであることを明かしておらず、フェイクのような形で事実婚を選択しているといった夫婦・カップルもいます。
経済的な事情がある
経済的な事情から事実婚を選んだ夫婦も多くいます。パートナーを支えていく経済的余裕がない、あるいはお互いに経済力がある、不動産など財産を持っているなど、経済的理由の中身はそれぞれですが、事実婚を選んだ方がお互いの経済状況に影響がないと判断しているからでしょう。
特に、経済的余裕がない場合は自分のパートナーだけではなく、パートナーの家族のことなども養っていけるかを考えたうえで、事実婚を選択している人も少なくありません。
入籍や婚姻に必要性を感じない
入籍や婚姻に対して魅力を感じず、事実婚を選んだカップルや夫婦もいます。自分たちの経済的自立、結婚観などを踏まえたうえで、法律婚と事実婚を見比べたときに「特に入籍に魅力がない」「婚姻に必要性を感じていない」と判断した場合です。
法律婚などで守られる部分はありつつも、自分たちにとってのデメリットが大きいと感じる人が事実婚を選ぶ傾向にあります。
結婚の選択肢として事実婚を進める際のポイント
結婚の選択肢として、事実婚を選ぶ人が増えている昨今。メリット・デメリットがある中で、夫婦で意見を合わせ法律婚とどちらが自分たちにあっているのか考えるタイミングも出てくるでしょう。結婚の選択肢として事実婚を選び、進める際のポイントをご紹介します。
相続関係の書類を作成する
事実婚では、仮にどちらかが亡くなってしまった場合の法的な手続きや財産分与などがありません。事実婚を選択することになったら、相続関係の書類をお互いに相談して作るようにしましょう。
保険などに入っている場合は受取人や条件なども確認し、事実婚であってもお互いに不利益が生じないよう、保険会社や弁護士にお願いするなどして、書類を残しておくことが大切です。
法的な親子関係になるため、子どもを認知する
子どもがいる、あるいは子どもができた場合は、子どもの生活や人生を守る権利があります。法的にも二人の子どもであり、お互いに子どもの親権・養育に関する義務があることを証明するため認知しましょう。
事実婚の場合、母親の単独親権となり、父親であると認知するには家庭裁判所などへの申請や書類の準備が必要です。しかし、法律婚ではないからこそ、しっかりと法的に二人の子どもであると証明することで子どもの人生を守ることができます。
職場の家族制度を利用する
事実婚の扱いは、会社・住んでいる県や市区町村で異なります。会社での扱いがどのようなものになるのか、必ず確認し、家族制度や家族扱いが可能であれば利用しましょう。
事実婚であっても、会社側が家族制度の対象としていれば、社宅の利用や細々とした家族への配慮にも法律婚と同じように扱ってくれるところが増えています。
住民票で世帯を合併する
「婚姻届を出していないけれど、家族として自治体などからの制度は受けたい。」と考えている場合、住民票を合併し、家族扱いとするシステムもあります。
その場合、住民票の「世帯主」としてどちらかを設定し、もう一方の続柄を「妻(未届)」あるいは「夫(未届)」と記載することができます。近年、ドラマの中などでも話題になりましたが、ただの同棲ではないことを、ある程度書類上で証明する手段の一つともされています。
パートナーシップ制度を活用する
自治体によっては、法律婚以外の選択肢の人を対象にパートナーシップ制度を設けています。これは事実婚に限らず、LGBTQや同性カップルなども対象になっていることがほとんどです。
パートナーシップ制度を利用することで宣誓書や確認書、公正証書などの受領書が交付され書類上も夫婦であることを証明できます。この制度を導入している自治体は年々増加傾向にありつつもまだ少ないため、自分たちの住んでいる、あるいは今後住もうとしているところについて調べておきましょう。
事実婚が向いている人とは
事実婚と法律婚では、待遇や手続きが異なります。法律婚・事実婚に関わらず、結婚の向き不向きも話題となる現代ですが、事実婚に向いている人はどのような人なのでしょうか?ここでは、事実婚に向いている人、その理由をまとめてご紹介します。
個人事業をやっている
個人事業主やフリーランスで仕事をしている場合、多くの人は自分の名前で仕事をしています。法人化していてもしていなくても、法律婚であれば関わる仕事すべての会社や人、申請しているものや自分の名前で登録しているシステムなどを変更しなければなりません。
多くの会社を巻き込むだけでなく、手続きもかなりの労力と時間を取られてしまいます。結婚したことで苗字が変われば「誰?」となってしまうこともないとはいえません。
自分の名前を残したまま、手続きなども特にない事実婚は個人事業主に向いているといえるでしょう。
夫婦関係は常に平等でありたいと考えている
夫婦関係は平等であるのは大前提ですが、法律婚だと世間的には男性優位な言動も少なくありません。「旦那さん名義で」「旦那さんと一度ご相談されてから…」など、女性の経済力があったとしても、そのように言われてしまうことは多々あるでしょう。
また、お互いの認識にも何かしら変化があるかもしれません。お互いに平等でいたい、何も制限されたくない、お互いのことを同じ熱量で見ていたい、という人は事実婚が向いています。
経済力があり、税制面の恩恵をあまり受けない
日本の法律婚には「配偶者控除」や「扶養控除」など、結婚することで付随する税制や制度がいくつかあります。しかし夫婦二人に経済的な力があり、税制面での恩恵が特に影響を及ぼさない場合は事実婚でも特に問題ないと感じる人が多いでしょう。
事実婚の場合、税制面での控除は適応されないため、今までと変わりなく
給与や税金の支払い、制度の申請などが可能です。
事実婚は会社にバレる?事実婚を後悔…会社でそう感じた理由
さまざまなメリット・デメリットのある事実婚。本人や友人関係の中では、特に問題がなくとも会社や公的な部分で後悔した経験がある人も少なくありません。良いところばかりではないからこそ、すでに事実婚をした人たちが経験した後悔をいくつかご紹介します。
法律婚ほど認知されていないため、配偶者としての扱いが受けにくい
「事実婚しました」といっても「事実婚…?」と認知度が低いが故に、配偶者としての待遇を受けにくいと感じた人も少なくありません。
会社として前例がない、法律婚としての手続きと事実婚としての手続きで会社の負担が増えるなどの理由から事実婚を報告しても「おめでとう」の一言で済んでしまう…。
会社などに限らず家族割や制度において、それぞれ事実婚に対しての対応が違うため「あっちでは大丈夫だったけれどこっちでは配偶者扱いできない」などの不公平さを感じることもあるでしょう。
家族限定のイベントに参加したとき「ずるい」と言われた
会社やコミュニティによっては、行事ごとやイベントに家族同伴や家族限定で参加可能なものも多いでしょう。事実婚は法律婚と違うため、他人という意識が強い人も未だ多くいます。
「家族限定なのに」「夫婦でもないのに」と、事実婚という結婚スタイル自体があまり受け入れられず「他人なのに家族限定に含められていてずるい」といった言葉を投げかけられた経験がある人も少なくありません。
法律婚の待遇の方が強い
国の定めている制度である法律婚の待遇がいいことは承知のはずです。とはいえ、実際に事実婚ではさまざまな場面で待遇の差を感じるという人がほとんどです。
税金関係や配偶者控除などの措置、夫婦や家族限定でのイベント、医療的な部分の同意…。これらは法的「配偶者」であることが前提とされていることがほとんどのため、事実婚で戸籍上の関係性を証明できないことで不利に働いてしまう経験も増えています。
法律婚と事実婚、自分に合った選択肢を選ぼう
法律婚と事実婚、どちらにもメリットやデメリットがあります。どちらが自分たちに合っているのかは、カップルや夫婦によって異なります。
ただし現在の日本では、法律婚が優先されることも多く、医療や公的な場では未だ法律婚ではないことで、受けられない制度が少なくありません。今後の法整備や世間での認識についての期待も多く寄せられています。
結婚は、お互いとお互いの家族を結ぶものではありますが、年々変化していくライフスタイルを考えながら二人にとってベストな選択をしていきましょう。